十年経って、大人になって。烏貝乙瓜は考える。
あれから元号も変わり、平成は終わって令和になった。世間も人も大きく変わったところもあれば、あの頃のまま残っているものもある。
古霊町でも少子化は進んでいて、古霊北中学校は何年か後を目途に南中と統廃合するという話もある。
そうなったとき、学校に残ったあの愉快な仲間たちはどこへ行くのだろうか。流れのままに消えて行くのか、それとも新天地を目指すのか。
――わからないな。眩しく輝く夏の太陽を見上げて目を細め、乙瓜は暫し、感傷にひたる。
あれから。
草萼火遠にはまだ廻り逢えていない。そして別れ際に彼の願った通りに生きられているかと問われれば、わからないとしか答えようがない。
後悔するようなことも何度だって。挫けそうに、諦めそうになったことも数えきれない。
きっとあのときのままの自分ではないだろう。乙瓜は思い、大きく息を吐きながら目を閉じ、首を元に戻す。
中学生の頃の自分には、どうあがいたって戻れない。けれど一方で乙瓜の中には、これで良かったんだと叫ぶ自分もいる。
それは諦めではなくて。沢山の後悔と挫折の果てに、得難い大切なものだけは失われなかったという確信があるからこそ。
(だから今は、それを失わないように。負けないように、戦っていく。誰かの考えた幸せの為でなく、心から自分が幸せになるために)
乙瓜は思い、目を開いて。真っ直ぐ前を向いて歩き出す。
いつか。いつか幸せになって、彼との約束を叶える為に。彼女の物語は回り廻る。
――たとえ、愚か者だとせせら笑われても。
(怪事戯話、怪事捜話、怪事廻話・完)