01.プロローグ
――1998年、7月。今年も例年に負けぬ勢いで蝉が喧しく鳴き、空は途方もなく高くて抜けるように青く、舗装されたコンクリートの地面には陽炎がゆらぎ、いかにも「夏」といった情緒を醸し出していた。
ここのところ全校生徒の話題といったら、夏休みには山へ行くだの海に行くだの、無駄に出される宿題のことなど知ったことかという風に盛り上がっている。
――はあ、呑気なことで。
嫌でも聞こえてくる級友達の会話という名の
いつも代わり映えしない日常の繰り返し、似たような会話、似たようなやり取り、悪ふざけ、面白味も無い授業、聞きあきたお説教。いつもいつも本当に代わり映えしない。無変化で平行線。類似品の押し売りセールスに意味はあるのか。……いや、きっと意味などないんだ。そんなくだらないものに一生懸命になるくらいなら、本能に身を委ねる蝉になってしまった方が遥かにマシだ。
そうして一通り批判的な思考を巡らせた彼女は、また何か考え事でもするふりをしながら『計画』について考えを巡らせるのだった。
きっかけは図書室で偶然見つけた一冊の本だった。
それには彼女が常日頃から感じている漠然とした不満や退屈を根本から破壊する方法が書かれていた。誰かの仕込んだ適当な悪戯かもしれない。だが、『退屈』故にそれに一通り目を通した彼女は、その内容があり得るものだと信じた。
退屈な世界は壊せるんだ、と。
そして、その本の内容を信じるに足る一つの『奇跡』を目の当たりにした。
故に、彼女は動き出してしまった。
それがどれだけ危険とわかっていても。今までの自分の生活全てを葬り去ってでも、それをしてみたいと思ってしまった。
彼女は賢かったが、賢者となるにはまだ若く、自分が成そうとしていることへの責任の取り方なんて考えもしなかった。
故に。
これは彼女たちが壊したものの記録。
そして、彼女たちが確かにこの世界の中に在ったという証明。