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ロクマルヨンゴー

首守

第零話.曾祖父の死

 7月29日、早朝。
 首刈の長が亡くなった。百八歳の大往生であった。

 首刈家は古霊町丑虎の方角に位置し、同じく苗字に首の一字を関する、通称「首の一族」の内の一家である。
 一族は町有数の名家である。一族の持つ広大な敷地や、各家の如何にも歴史古く由緒正しき造りの邸宅を見れば誰であろうとも、自ずと彼らが町の中でどれほどの権力を握っているのか、容易に想像し得るだろう。
 事実、合併して現在の古霊町になるより以前の旧町村時代から、首の一族は村会・町会議員を多く輩出し、この地の政治に深く関わりをもっていた。実質、古霊の影の支配者と言っても過言ではない。

 さて、そんな名家で亡くなられた首刈の長、首刈髄右衛門は、「長」と通称される通り一族の中では最高齢であり、町の知恵者として、一族のみならず地域の住民にもよく慕われていた人物だった。
 髄右衛門は、昨年の冬足を怪我して歩けなくなるまでは足腰丈夫で痴呆もなく、道行く人が羨むほどに元気溢れる老人であったが、床に伏すようになってからはみるみる内に生気はなくなり、次第に家族の者のことすら認識できなくなっていった。そして僅か八ヶ月後の今日。百八年という歳月を生きてきた彼は、余りにもあっけなく逝ってしまったというわけだ。
 彼の訃報は瞬く間に町中に伝えられ、その日首刈家に弔問に訪れる者は、ついぞ途絶えることはなかった。
 馴染みの深い老人達は泣き崩れ、嘗て髄右衛門の世話になった町長や議員も彼との別れを惜しみ。彼に可愛がられて育った孫や曾孫達も、想像より遙かに早い彼との別れに驚き悲しむばかり。
 ……そんな中、髄右衛門の子や甥姪達は弔問客の相手もそこそこに、一室に籠もってひたすらある相談をしていた。

 ――今宵の「首守」を如何にせん、と。