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シールブレイク

01.前日譚

――1998年、7月。

 今年も例年に負けぬ勢いで蝉が喧しく鳴き、空は途方もなく高くて抜けるように青く、舗装されたコンクリートの地面には陽炎がゆらぎ、いかにも「夏」といった雰囲気を醸し出していた。
 ここのところ全校生徒の話題といったら、夏休みには山へ行くだの海に行くだの、無駄に出される宿題のことなど知ったことかという風に盛り上がっている。
――はあ、呑気なことで。
 嫌でも聞こえてくる級友達の会話という名の雑音(ノイズ)を脳内で極力排除する。
 いつも代わり映えしない日常の繰り返し、似たような会話、似たようなやり取り、教師のつまらない授業、お説教。いつもいつも代わり映えしない。無変化で平行線。類似品の押し売りセールスに意味はあるのか。……いや、きっと意味などないんだ。そんなくだらないものに一生懸命になるくらいなら、本能に身を委ねる蝉になってしまった方が遥かにマシだ。
 そうして私はまたいつものように机に突っ伏して寝たふりをしながら、『計画』について考えを巡らせるのだった。
 ここ古霊北中学校には、もう何十年も昔の創立当初から色々と怪しい噂が絶えない。
 怪しい、と一口に言っても、教師と生徒があらぬ関係にあったりとか、あまり街頭で気安く口に出したくないような団体と癒着してるとか、そういった俗世間の闇的なベクトルのものではなくて。
 ……『出る』、らしいのだ。
 何がと問われる前に世間全般の人々にもわかるよう訂正するのなら、そう、つまり――魑魅魍魎(バケモノ)の類が。
 無論、誰もが信じているわけではない。半信半疑の奴もいれば、ネタとしてさっぱり信じていない奴も多々。それよりも遥かに多数派なのは自分達の都合に併せて信じる信じないを行き来する奴。
 普段は科学で解明出来ないものなんかこれっぽっちも信じちゃいないくせに、都合の良いときだけ神様を拝んで幽霊と会話する。
 まあ人の思想なんて千差万別、別に他人が何て思ってようが知ったところで一々目くじら立てて注意する気なんかこれっぽっちもないんだけどさ。

――でもそれもこの夏まで。何故って? それは私が、他ならぬこの学舎から革命を起こすからだ。

『お化けは居る』

 それは、そんな確信を得た時から始まった計画。
 図書室で偶然見つけたその本は、十数年ぽっちの時間で染み付いた常識を覆し、私の中で聖書となった。

『見エナイノナラ、信ジナイノナラ満タシテシマエバイイ。否定スル隙サエ与エヌヨウニ』

 だから私は、地獄の底から魑魅魍魎を溢れさせ、世界を混沌で満たしたい。……そう、1999年7の月、空から恐怖の大王が降りてきて、世界が終わってしまう前に。

 私は世界の秩序をこわす。



「それは世界の理への反逆と見なしてかまわないね?」

 遥か遠く、或はすぐ近くからだったか。誰かの嗤う聲が聞こえ、そして――消えた。