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道程

 どこへ続くかわからない暗い道を進んでいくと、最初に一人の子供に出会った。
 人間離れした若葉色の、しかし綺麗な瞳と髪を持つ子供だ。
 彼女は言う。
「私は悔しい。私の弟がどこかに行ってしまった。そしてその場所には私は行けない。見えない鎖で縛られているから。だけど弟は自由の身。ああ、私は悔しい」
 それだけ言い終えると、子供は泡のように消えてしまった。

 また暫く歩いていくと、今度は一人の老人に出会った。僧侶の出で立ちをした、険しい顔の老人だ。
 老人は言う。
「私は羨ましい。私の命はあと僅かだ。私がしたことも、地位も、名誉すら、死んでしまえば無に等しい。だが、彼は若く、私などより遥かに長い寿命を持っている。ああ、私は羨ましい」
 老人は深く項垂れると、煙のように消えてしまった。

 また暫く歩いていくと、今度は一人の青年に出会った。端正な顔立ちと、意志の強そうな目をもった青年だ。
 青年は言う。
「俺は憎い。どんなに腕を磨こうが、あいつは俺をいつも子供扱いして馬鹿にする。俺はもう一人前だ。俺はそれを認めてほしいのだ。ああ、俺は憎い」
 青年は悔しそうに言うと、雪のように溶けてしまった。

 また暫く歩いていくと、今度は一人の少女に出会った。三編みの似合うもんぺ姿の少女だ。
 少女は言う。
「私は嬉しい。私はいつも縛られてばかりだった。私は世界を知らないまま、このまま死んでしまうのだと思っていた。けれど、彼は私を連れ出してくれた。私は沢山のものを見ることが出来た。だから私に悔いはないわ。ああ、私は嬉しい」
 彼女は微笑むと、その場で炎に包まれ燃え尽きてしまった。

 また暫く歩いていくと、今度は一人の婦人に出会った。西洋の古風なドレスに身を包んだ、如何にも優雅そうな婦人だ。
 婦人は言う。
「私は悲しい。私は彼を裏切ってしまいました。地位も立場も、何もかも捨てた恋だったのに、私は彼を恐れてしまったのよ。私は彼と娘を捨てて逃げてしまった。ああ、私は彼に何と謝ったらいいのでしょう。私にはもう彼に会わせる顔もないわ。我が最愛の夫よ、でも私にはそうだと言う資格すらないの。ああ、私は悲しい」
 婦人は崩れ落ちると、どこからか生えてきた茨の藪に飲み込まれて消えてしまった。

 婦人が消えた向こうに光が見える。どうやらこの旅も終りに近いようだ。

 最後に、私は私の幻に出会った。
 私は言う。
「私は世界の誰より彼を悔しがり、彼を羨み、彼を憎み、彼に喜び、彼に悲しみ……そして何より、彼を愛しているか?」と。
 私はそれに「はい」と答えた。

 私の幻は消え、後に残るは私と光る道のみ。
 道程を辿る旅は終り、そして私は彼に出会った。

 光の中振り返るのは、追い求めていた愛しい顔。
 私は今度こそ言おう。

「    」


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水祢が追い続けるおはなし。