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From the Earth.

 わたしには、おじいさまとお姉さまがいます。
 聡明なおじいさまと、優しいお姉さま。大好きな二人。他の家族は、いません。

 わたしは孤児みなしごでした。
 実の親の顔は知りません。ほんの赤ん坊のころに、おじいさまの家の前に捨てられていたのが私です。

 おじいさまはとてもお忙しい立場にありながら、どこの者とも知れぬわたしの養父となってくださいました。
 おじい様はとても物知りで、幼い日のわたしにたくさんの事を教えてくださいました。
 この国のこと、この宇宙のこと、神話に出てくる鳥のこと、昔のこと――。おじいさまに教えていただいたことは数え切れません。
 わたしはこの国では特に新参者です。ほかの方々が実際に見て知っているようなことを、しりません。
 ですから、おじいさまが何か昔話をして下さるとき、私はその光景を想像の中でしか見ることが叶いません。
 なので、よくのけものにされてしまいます。こんなことも知らないのかと、ばかにされてしまいます。
 ……違います。私は知らないのではないのです。知識の上では知っているのです。
 ですが、生のそれをしらないのです。ただ皆様と違って、わたしはその時生まれていなかっただけなのです。
 幼い日のわたしは、それがとてもつらくて仕方ありませんでした。

 わたしが泣いて帰ってくると、玄関に飛ぶように走ってくる人がおります。それがお姉さまでした。
 お姉さまはおじいさまの年若い末娘で、その頃はまだおじいさまの家におりました。
 お姉さまは泣いているわたしを抱きしめながら、なにもわるくはないと慰めてくださいました。
 わたしが泣き止むと、お姉さまは笑って、それからわたしのすきなものを作ってくださいました。
 わたしが悲しい時、落ち込んでいるとき、いつも励ましてくれるお姉さま。その心遣いが、とてもとても嬉しかったです。
 でも、わたしがしょんぼりしていると、お姉さまはそれ以上に哀しくなってしまいます。
 すごく辛そうな顔をしていらっしゃるのを、見ました。だからわたしは、泣かないように、強くならないといけないと。そう思うように、なりました。

 わたしに知恵を与えてくれたおじいさま。ありがとうございます。おかげさまでわたしはもう、己の力で考えて己の道を進んでいけます。
 わたしに愛を与えてくれたお姉さま、ありがとうございます。何度も折れそうになったわたしが、こうして立っていられるのはお姉さまのおかげです。

 今、わたしは独り異郷の地におります。
 故郷のことより知らないことだらけの、遥か彼方の地におります。
 ここにはおじいさまがおりません。ここにはお姉さまがおりません。
 わたしとあなたたちを隔てる三十八万キロは、残酷なまでに遠いです。もしかしたらもう二度と、帰ること叶わないかもしれません。
 もう二度とお二人に会えないかと思うと、この身果てるまで叫び続けてもまだ足りない思いです。干乾びるほど泣いてもまだ足りない思いです。

 それでも、わたしは生きてゆきます。歩いていきます。
 悲しいです。哀しいです。けれど立ち止まることは愛してくれたお二人への、何より残酷な裏切りだと思うのです。
 何年か。何十年か。何百年か。何千年か。わかりませんけれども。生きていれば、きっとこの先の未来で、また会えます。わたしは信じております。

 ですから、どうかお元気で。
 待っていてください。必ずいきます。きっといきます。小竹るびんは帰って参ります。


 壊れた通信機に向けた最後の通信ひとりごと。地面に落とすのはお別れの、最後の涙。
 まっすぐ手を伸ばした闇色の空に浮かぶこきょうは丸く小さく。そして、とても美しかった。
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2013. 3. 4 るびんと決意の話。