怪事捜話
第十一談・幻想暴走フェスティバル④

 九月六日土曜日、七時過ぎ。
 まだ早朝の北中のグラウンドには既に大勢の生徒が集い、設営の最終チェックや、ダンス振付の最後の確認等を各自行っていた。
 体育祭に直接使われない前庭やテニスコート前には出店の準備が始まり、バックネット付近に設けられた駐車場には徐々に車の台数が増え、普段は見られない保護者や近隣の大人達の姿も徐々に増えつつあった。
 夏の間に美術部が製作したシンボルと横断幕のスローガンは、それぞれ校舎の高い位置に堂々と設置され。秋晴れの空の下、地上で動き回る子供たちを静かに見守っているのだった。
 そんなシンボルを遠く赤団のテントの中から見上げながら、乙瓜は満足げに頷いた。
 それは自分達の関わったシンボルの見栄えの良さに対するものでもあったし、これからいよいよ体育祭かという感慨交じりのものでもあった。
 隣の青団のテント下でも、魔鬼が同じような表情うんうんと頷いている。
 二人は直後、誰に促されるでもなく顔を見合わせると、無言でニヤリと口角を上げた。
 普段は同じ部活の仲間、怪事の際には背中を預け合う仲間同士だが、今日は違う。
 異なる色の旗の下競い合う者同士、互いに「負けないぞ」という気持ちがそこには在った。
 そんな彼女らの無言の会話の間に、飛び込んでくる声が一人。
「乙瓜ちゃーん、魔鬼ちゃーん。おはよー」
「んあ?」
「お?」  不意に聞こえて来た声に乙瓜も魔鬼も間抜けな声を漏らし、呼ぶ声のする方へと振り返った。
「眞虚ちゃん!」
 乙瓜が叫ぶ。その視線は今まさに部室棟の前を駆けてくる小鳥眞虚の姿を捉えていた。
 ぶんぶんと元気よく手を振りながら駆け寄る眞虚は、なにやらパンパンに膨れたスポーツバッグを背負っているようだった。
「なんか、荷物いっぱいいっぱいだね?」
 程なく団のテントへ辿り着いた彼女を指して魔鬼が問うと、眞虚はちょっぴり寂しそうな顔で笑って「お弁当」と答えた。
「今日お父さんとお母さん、来られないから」
「あー……。そういや眞虚ちゃんの親って忙しい仕事してたんだっけ?」
 魔鬼はちょっぴり悪いことを聞いてしまったような気になって、ばつの悪い表情を浮かべた。
 そんな魔鬼を見て、眞虚は不思議そうに両目をパチクリとさせた後、何かを思いついたように徐にスポーツバッグの中身を漁った。
 そしてはち切れそうな鞄の中からペットボトルを一本取り出すと、何の予告も無しに魔鬼の頬にぴたりと当てたのだった。
「冷たっ!」
 その温度に、魔鬼は思わず飛び上がった。眞虚が当てて来たペットボトルはカチコチに凍っていたのである。
「おあッ!? 大丈夫か!?」
 一瞬遅れて反応する乙瓜に「大丈夫」と答え、魔鬼はまだ驚きの色の残る目で眞虚を見た。何をするのかと問いかけるも、眞虚は悪戯っぽい表情で「ふふ」と笑うだけだった。
 多分それは、眞虚なりの気遣いだったのだ。
 これから体育祭という朝に、気にしなくてもいい事で魔鬼がちょっぴり暗い顔をしたから、驚かせてみたくなっただけなのだ。
 当の魔鬼は気付いていない。
 しかし吃驚びっくりした事で思考が上書きされたのだろう、ばつの悪い表情なんてどこへやら、今やすっかり唇を尖らせて「眞虚ちゃんが不良になった!」と乙瓜にぼやいている。
 眞虚はそれを見てもう一度小さく笑った。
 混乱する魔鬼を宥めながらその様子をチラリと見ていた乙瓜は、何となく眞虚のしたかった事を察したが……敢えて言わず、心の中に留めることにした。
 ただ、昼休憩の時間には自分の祖母が大量に持ってくるであろうから揚げをおすそ分けしてあげようとだけ考えながら。
 そうこうしている内に刻一刻と開会時刻が近づき、団テントの付近には最後の確認を終えた生徒たちがぞろぞろと集合しつつあった。
 あちこちで「頑張ろうね」或いは「負けないぞ」というやり取りが交わされている。
 如何にもやる気に満ちた表情の生徒もいれば、ちょっぴり浮かない顔の生徒もいる。
 そんな生徒たちの波に、乙瓜はそっと視線を向けてみた。
 ふと見れば、遊嬉がクラスの中心的なグループに混じって気合を叫んでいる。また別の場所では、杏虎と深世が昼の段階でどちらの団が勝っているかでかき氷を奢るか決めようと賭けをしている。
 テントの隅には先月の一件から大分回復したと思しき躯売詩弦の姿があって、乙瓜と目が合うと、少しばかりばつが悪そうに頭を下げた。
 また、テントからあぶれた後方には例の事故から復活してすっかりピンピンしている鵺鳴峠や墓下、賽河原らの姿もあった。……こちらは乙瓜の視線に気づくことなく、内輪で調子のいい会話を繰り広げているばかりだったが。
(なーんか、本当に日常って感じだな)
 乙瓜はふとそう思った。怪事という非日常があって、その中で傷ついた人も居て。けれど何事も無かったかのように体育祭が実行されて、何事も無かったかのように参加している彼らの姿を見て。それが当然あたりまえの日常である筈なのに、乙瓜はなんだか不思議だなと思ったのだった。
 ――まるで、何もかもが夢だったかのような。
 そんな感情を抱きながらどこか上の空で立ち尽くす乙瓜に、唐突に声がかけられる。
「ねえってば」
 声と同時に叩かれる肩に、乙瓜はびくりと身を震わせた。しかし振り返った先には、怪訝な表情を浮かべる魔鬼の姿があるのだった。
「そんなに驚く事ないじゃん。ていうかぼーっとしてどうしたのさ?」
 魔鬼は訝る表情そのまま首を傾げ、次いで話を聞いていなかったことを責めるように両の腕を組み合わせるのだった。
 乙瓜はそんな彼女に「ごめんごめん」と謝ると、改めて何事かと聞き返す。魔鬼は暫し押し黙った後腕組みを解き、口を開いた。
「私らも何か賭けでもしないかって、そう言ったんだよ」
 改めてそう告げた魔鬼は、まだちょっぴりご機嫌斜めの様子だった。
「お、おう。いいけど、何賭ける?」
 言外の圧力にたじろぎながら乙瓜が返すと、魔鬼はむくれた表情のまま乙瓜の顔をじぃっと凝視し、それから言った。
「かき氷……って言おうと思ったけどやめた。最終的に負けた方が勝った方の言う事一つ聞くって事にする」
 いい? と念押しして魔鬼はくるりと背を背けた。
「いやちょっと待て魔鬼! 言う事って具体的に何だよ!?」
 その肩を捕まえて乙瓜が問うと、魔鬼はジトリとした視線だけ向けて「それはその時になったら考える」とだけ言い残し、青団の人集りの中へと消えていった。
 乙瓜は暫し釈然としない表情のまま立ち尽くしていたが、誰かの指先が頭の後ろをつつくのに気付き、同時に何か嫌な予感を覚えながらも背後を振り返った。
 案の定というか、予想通りというか。そこにはニタニタとした笑みを浮かべる火遠の姿があった。深紅の髪の毛を炎と燃やすその姿は、ふわりと宙に浮かんでいる。
 こういう時、普通の――何の霊感も無い人間には彼の姿は見えていないのだ。
「……やっぱりお前かよ」
 周囲を気にして声を潜め、乙瓜は火遠をギロリと睨んだ。
 火遠はその凶悪な視線を何食わぬ顔で受け流すと、「いや、別に」と意味深に笑った。
「今日は体育祭だからお前に構ってる暇はねえよ」
「そんな事くらい知ってるよ。見ればわかるじゃあないか」
 火遠は言って、わざとらしく周囲を見渡してみせた。
 乙瓜は如何にも小馬鹿にしたようなその様子にイラッとしながら、「じゃあなんだよ」と頬を膨らませた。
「冷やかしなら帰れよ、もうすぐ始まるんだから」
「それもわかってるさ。わかってるけど、今のうちに君に一言だけ伝えておきたくてね? 本当は何も言わないつもりだったけど、それはそれで可哀想じゃあないかと思ってさ」
「何だよ、何かあるなら勿体ぶらずに早く言えよ」
 乙瓜が不機嫌に眉をひそめる中、火遠は懐から何かを取り出した。
 そしてそれを「はい」と乙瓜に握らせると、幾らか真面目な表情でこう言った。
「じゃあ言うけど。多分これから大変な事になると思うけど、まあ頑張りな? って」
「はあ?」
 どういう事だよと乙瓜が続ける前に、火遠は「じゃ」と小さく手を振り姿を消した。
 乙瓜は何が何だか分からないと溜息一つ吐いた後、先程火遠が有無を言わせず握らせていった何かを思い出し、己の拳に目を向けた。
 手のひらの中には、僅かに固い感触。
 指を解いてそれが何か確かめてみると、それは去年の冬以来だろうか、暫く目にする機会のなかった花子さんの鏡であった。
「……? 花子さんの鏡じゃんか。なんだってこんなものを……」
 乙瓜が怪訝な視線を鏡に向けると殆ど同時か、キィというノイズと共に校外のスピーカーから放送が流れた。もうすっかり保護者席のテントも埋まり、前庭には家族関係はなくとも単純に遊びに来た近隣の小学生やOBの姿も大勢あるのだ。誰もがその放送を開会を告げる放送だと思った。……しかし。

『はいはぁーい。お集りの生徒・保護者・地域の皆さま、おはようございまぁす! 本日は絶好の体育祭日和で、私たちとしても本当に嬉しく思いますっ!』

 次の瞬間スピーカーから流れ出したのは、その場に集った大多数の人間にとっては知らない少女の声だった。
 声はまるでバラエティ番組の司会者のように溌剌はつらつとしており、平時の放送委員のようなかしこまった調子は皆無であった。
 この声の主は誰かと辺りがどよめく。放送本部では「誰もマイクを持っていないのに」と慌てているようで、今期の放送委員の生徒と教師が何人か、放送室へと走っていった。
 乙瓜の周囲も「この声誰?」とざわついている。「何かのトラブルで過去に録ったテープの音声が流れてしまっているのでは?」と予想している生徒もいる。そんな生徒たちの中で、乙瓜だけは――否。美術部二年たちは皆、周囲とは違った意味で動揺していた。
「ど、どういう事だよ……!?」
 呟き、乙瓜は放送の主の姿を探した。他の五人もそれぞれ周囲を見渡し、確実にこの場に来ているであろうその人を捜した。彼女らにはこの声に聞き覚えがあったのだ!
 一方、怪奇な放送は容赦なく続く。
『生徒の皆さん、連日の練習お疲れさまでした! 皆さんの熱気は毎年私たちにいい意味で刺激を与えてくれて大好きです! そんな熱気の渦の中に、今年は私たちも混ぜて頂けませんでしょうか? どうぞよろしくお願い致します』
 放送はそこで一旦途切れた。まるでお辞儀の間を置くように。

「宜しくって、一体どういう事なんだ!?」
「誰が体育祭に混ざりたいって!?」
「毎年見てるって……やだ、不審者!? 怖ぁッ!」

 場の混乱はいよいよピークに達し、あちらこちらで「放送してる奴姿を現せ!」と怒声が上がる。
 するとまるでそんな声を待っていたかのようにスピーカーが震え、まるで笑うようなノイズを上げた後で『いいでしょう』と言葉が続いた。
「いや、よくねえよっ!」
 乙瓜は叫んだ。その声は周囲のどよめきに混じって誰にも届くことは無かった。別の場所に居た深世はこの世の終わりのように頭を抱えていた。眞虚や魔鬼はなんとなくこの後起こる事を察して何かに対して祈った。遊嬉は内心ワクワクとしていて、杏虎は割とどうでもよさそうに腰に手を当てた。
 誰もがこれから起こる事への不安と期待で落ち着きを失くしていた。それは生徒も、教師も、保護者も、集った地域の人々も。皆等しく同じであった。
 その真っ只中に放送が響く。それはまるで歌うように、それはまるで叫ぶように。自分達がまさにそこに居るのだと主張するように、声を張って歌い叫ぶ!

『有ると思えばそこに在り、無しと思えばそこに亡し。されど思わざれば在るものすら見えぬ人の子よ、括目かつもくせよ! 私たちは既に在り、常に在り、現世うつしよに寄り添う隣人である!』

 北中の敷地中に呪文のような言葉が響き渡り、場を支配する。最中どこからともなく風が起こり、今は葉ばかりの校庭中の桜の木がざわざわと鳴く。万国旗が揺れ、グラウンドの砂がぶわと巻き上がり、皆一斉に目をつむる。
 その一時の暗闇の後、誰もが信じられないものを見た。ほんの数秒前には誰も居なかった筈の朝礼台に、確かに立つ人影があったのだ。
 それは、少女だった。その他大勢の生徒たちと同じ、学校指定の体操着を着た小柄な少女。しかしその他大勢の生徒たちと違う、雪のような真っ白な髪と宝石のようなアイスブルーの瞳を持つ少女だった。
 突然登場した少女の姿に、誰もが息を飲んだ。大掛かりなマジックを見た気分となって手を叩く者すら居た。彼女に向けられるのは驚きと疑問の視線。彼女はどこから現れたのか、そして彼女は何者なのか。それを知るのは美術部しか居ない。
 異国の名を持つ赤マントの少女、エリーザ・シュトラム。しかし今は最大のトレードマークである赤マントを封印している彼女は、ほんの少しだけ引きつった表情で辺り一面に視線を遣ると、スタンドマイクを持ち上げて小さく咳払いした。直後「大勢前にするとやっぱりちょっと怖いな」と呟いたのがマイクに拾われていなかったのは幸いか、彼女は改めてその場の全員に向けて宣言した。

『改めまして皆さま! 本日は古霊北中学校体育祭へとお集り下さいましてありがとうございます! えー、誠に勝手ながらッ! 本日の体育祭は現時刻を持ちまして、第一回表生徒・裏生徒合同体育祭となりました! 事実上の体育祭ジャックですッッ!』

 占拠ジャック宣言。この場の主客しゅかくへの言及。体育祭の支配宣告。
 周囲は騒然となり、各方面から野次が飛んだ。生徒・保護者は勿論生徒を監督する立場の教員たちとて黙っていない。当然だ、裏生徒を名乗るどこの何者かわからない者に年に一度の体育祭を好き勝手させるわけにはいかない。
 既に数名の教師が朝礼台へと向かい、エリーザにそこから降りるように促す。体育の更科と首藤だ。一応相手が少女なので強引に引きずり下ろすのは不味いと思ったのだろう、口頭注意だけで早く台から降りるようにと促した。
「ほら、何のつもりかは知らないけれど降りてきなさい。今ならちょっとした悪戯で済ませてあげるから!」
「悪戯じゃないです、降りないです! ……ふええん、やっぱり私人間相手は苦手ですぅー! そろそろ何とかしてください~!」
 エリーザはマイクを抱えたまま叫んだ。叫びは各所のスピーカーからハウリング音となって響き渡り、不快な音が校庭を駆け抜ける。
「まっったく! あいつ本当になにやってんだ!」
 乙瓜は舌打ちした。火遠の言う大変な事とはこれだったかと。
 教師と「降りろ」「嫌だ」の問答を繰り返してマイクに雑音を入れるエリーザを見兼ね、乙瓜は今にも飛び出さんばかりの体勢だったが、自分の親も来ているという理性が彼女の足をギリギリその場に踏みとどまらせた。乙瓜だけではなく他の誰も飛び出して行かない辺り、やはり皆そうなのであろう。
 今日はいつもとは違う。身内の目があり、教師の目もあり、見知らぬ大勢の目がそこに在る。
 かつてのマラソン大会の時のように衆人の目を掻い潜る抜け道も無い。正真正銘の非常事態がそこに在った。
(どうすんだよ……!)
 乙瓜は拳を握りしめ――次の瞬間、彼女はテントの屋根に伝いにひらひらと落ちる何かに気付いた。
 そしてそれが自分達のテントの周辺だけでなく、グラウンドに、校舎に、辺り一面に降り注いでいる事にも。周囲の皆もまた、続々とそれに気づき始める。  微かな風に乗って辺り一面に舞い飛ぶ白い何か。
 それは季節外れも甚だしい、桜の花弁であった。
 秋空の下舞う桜の花弁。どこかミスマッチで幻想的な光景が辺り一面を支配し、群衆は既に自分達がどう反応していいのかを見失いつつあった。
 彼らの中に湧き上がる疑問は全て白昼夢のような光景の中に霧消してしまい、やがてエリーザに野次を飛ばす者は居なくなった。
 混乱のどよめきもざわめきも消え失せ、辺りには驚くほど静かになった。
 エリーザを降ろそうとしていた乙更科と首藤もすっかり大人しくなってしまい、エリーザをその場に残したまま頭を掻き掻き本部テントへと引き返していく有様である。
「ど、どうなって……?」
 乙瓜は目を白黒させた。そんな彼女の傍らに、人波を掻き分けて眞虚が立った。
「乙瓜ちゃん……!」
「眞虚ちゃん! ……とんでもないことになっちゃったな」
 言いながら、乙瓜は内心安堵していた。この状況が始まってから初めて現状・・について話し合える仲間と合流出来たことが純粋にありがたかった。
 表情を緩め胸を撫で下ろす乙瓜に対し、眞虚は未だ心休まらない様子で言った。
「安心にはまだ早いよ乙瓜ちゃんっ、今の花弁でみんなに何かの術がかかっちゃってる」
「なんだって!?」
 驚く乙瓜に頷いて、眞虚は言葉を続けた。
「うん。多分、今の状況をおかしなものだと認識させない術が……!」
「認識……妨害! それってまさか……!」
 乙瓜は思い当たる事があって目を見開いた。
 そういえば、そうなのだ。去年のあのマラソン大会で、衆人環視の中遊嬉が崩魔刀を振るった時。大した話題にもならず人々の中で白昼夢として消化されたのには、他でもない学校妖怪が、その代表格たる彼女が関わっていたではないか、と。
(体育祭ジャックだなんて、こんなバカげた事を考え付くのは、こんなバカげた事を実行しようとするのは……! 俺の知る限り一人しか居ねえ!)
 ハッと顔を上げ、乙瓜は朝礼台の上を見た。
 果たしてそこにはエリーザからマイクを変わり、正面に控える全校生徒へ向けて満面の笑みを向ける黒幕――花子さんの姿があった。
「やっぱり!」
 乙瓜は眩暈めまいを覚えて額を抑えた。
 傍らの眞虚は呆れ顔で「まさかのまさかだったね」と溜息を吐いている。
 多分別どこかで美術部の各員も呆れるやら感心するやらしている。認識妨害をかけれれている皆は特に疑問も持たずに朝礼台上の彼女に目を遣っている。
 まるでアイドルのように大勢の視線を一身に集め、花子さんは笑顔を崩さずこう告げた。

「表生徒も裏生徒も楽しく面白く。体育祭のはじまりよ~!」

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