怪事捜話
第十七談・雪山妖霊スノーデイ⑧

「どうしてこんなしょうもない悪戯したんだよ」
「お姉さんたちがこっちに来るってきいたから!」
 乙瓜が呆れたように腰に手を当てる中、天華は悪びれもせずそう言って理由を語りだした。

 曰く、去年のおつかい・・・・の後無事に故郷の山――スキー場とホテルからそう遠くない場所だ――に無事帰りつき、暖かい春夏を超えて再び活動をはじめた天華は、先月になって自分の母と黒い服の人物がこっそりと話しているのを見たのだという。
 彼らの話に耳を澄ませると、どうやら古霊北中学校の美術部がこちらにやってくるといった内容を話しているようで、それを聞いた天華は短絡的に「あの時のお姉さんたちにまた遊んでもらえる」と思った。故に話の中に出て来た日付を必死で覚え、以降の日々は、ずっと楽しみにしてそわそわしながら過ごしていたたらしい。
 そして覚えていた日付がやってくると母親の目を盗んで山を下り、こっそりとこのホテルに忍び込んだ。だが人間の大勢集まる場所になんて、それこそ北中くらいにしか来たことの無い彼女はホテル内を行き交う観光客やスタッフの数に怖気づき、暫くは物陰に姿を隠していたらしい。けれども殆どの人間には自分が知覚出来ない事に気づくと、自分が無自覚に発する冷気に人間が驚く様がなんだか面白くなってしまい、無差別に驚かせながら見覚えのある顔の泊まっている部屋を捜した。それがホテルで起こったちょっとした怪事の真相であり、雪だるまは「見つけたよ」という目印だったというわけだ。
「……ならなんで俺たちの部屋じゃないところにまで雪だるま置いたんだよ」
「だって最初に置いた雪だるま片付けちゃうんだもん。だったらもうちょっといっぱい置いてびっくりさせてみたら、お姉さんたち遊んでくれるかもって、わらし思って」
 何ともはた迷惑な理由を告げる雪童子を見て、乙瓜は呆れたように頭を押さえた。魔鬼も溜息を吐いている。遊嬉は少し感心したように手を叩き、眞虚は苦笑いを浮かべ、杏虎は表情を引き攣らせている。どうしてか付いてきた深世は、冷気に当てられたのかちょっとぶるぶるしていた。多分凍り始めている。
 天華はそんな"お姉さんたち"の反応を前にしながらあっけらかんとして「それじゃあ何して遊ぶ?」などとのたまう。
「前の時はいなかった人もいるけど何する? おにごっこ? かくれんぼ? ここ凍らせちゃうのはみんなびっくりしちゃうからダメだよね。外行く?」
「行かねえよ。殺す気か。……ていうかな、そもそも俺たち合宿でここに来ただけであって、そんなに暇じゃあないからな? なあ魔鬼」
「そうそう。その上明日の昼にはもう帰らなきゃならないし」
 怒り半分呆れ半分、二人が口々にそう言うと、天華の表情はみるみる内に曇り、花が萎むように俯いてしまった。
「そっか、そうだよね。ごめんなさい……」
 しゅんとして反省を口にする幼い妖怪を前に、乙瓜も魔鬼も少しばかりは悪い気がして顔を見合わせる。と、そんな二人の間を「ごめんよー」と割って通り、遊嬉が一歩前に出た。
「遊ぶ時間がないのはあたしらも残念なんだけどさ」
 彼女は言って膝を屈めると、天華の顔を覗き込むようにして言葉を続けた。
「天華ちゃんのお母さんは、どうしてあたしらがここに来る事について話をしてたのかな。知ってたら教えてほしいな」
 苛立ちなど微塵も感じさせない穏やかな口調で言い終えると、遊嬉はニコリと微笑んだ。そっと顔を上げ始めた天華はそれを見て小さく口を開き、何かを思い出すような一拍の間を置いてから「あのね」と語りだした。
「あの、あのね! お母ちゃん、お姉さんたちに挨拶したいって、黒い服の人とそういう話をしてた!」
「挨拶?」
 遊嬉がキョトンとしながら言葉を反芻すると、後方に立っていた杏虎がハッとしたように耳に手を当てた。
「……杏虎ちゃん、どうしたの?」
 いち早く気づいた眞虚が問うと、杏虎は訝し気な顔で「歌が」と答えた。
「歌が聞こえる。建物の外から――近づいて来てる……こっちに来る」
 断片的に情報を呟く彼女の瞳が淡く光る。おそらく彼女の虎の目には、既に何かが見え始めている。
「昨日の歌か?」
 乙瓜がそう問うのと同時に、天華が嬉しそうに声を上げた。

「お母ちゃんだ!」

 歓声と同時に彼女が走り出すのを、美術部の誰も止める事は出来なかった。一瞬の呆然の後、思い出したようにその小さな影を追うと、天華はまっすぐにフロント方面へと駆けていく。
「ねえちょっと、おいちょっと! 行くの!? 雪ん子のお母さんだよ!? 雪女だよ!? 行くの!??」
「ん? どうせあたしらに用なら行っても行かなくても同じじゃん。ていうか深世さん、嫌ならさっきのとこで待ってればいいのに」
 なんだかんだと言いながら付いて来る深世に振り返り、杏虎はあっさりとそう言った。深世は「うう」と唸って頬を膨らませると、「どうなってもしらないからな!」とそっぽを向いた。
「まぁ、深世さんも段々とこっち側になって来たってこっちゃ」
 杏虎は意味深に呟き、前方に注意を戻すなり「止まって」と叫ぶ。その声がブレーキとなり、美術部一同は殆ど同時に足を止めた。
 彼女たちが足を止めたロビー。8時を超えて人気も疎らとなったその場所の中心には、このホテルの中にあって異質な存在感を放つ人物が凛然として立っていたのだった。
 透き通るような白い肌。死人のように白く、しかし不気味さより儚さや美しさを感じさせる白い着物。霜を流したような白い髪。見事なまでに真っ白な女がそこに居た。ともすれば幽霊にも見える彼女は、唯一黒々とした瞳に慌ただしくやって来た美術部一同を捉えると、丁寧に腰を折って一礼した。
 美術部メンバーははじめ、その浮世離れした風体を前に呆然としていたが、よくよく見ればその着物の裾には天華が縋りついている。それにさえ気付いてしまえば、彼女が天華の母親――雪女であることは自明であった。
「えっと……雪女、さん?」
 疑問形で訊ねた魔鬼に、面を上げた白い女は鈴を鳴らしたような声で「はい」と答える。
「天華の母で銀華ぎんかと申します。この度は娘が大変ご迷惑をおかけしました」
 雪女――銀華は再び頭を下げ、天華もそれにならうように頭を下げた。
 思ったより平身低頭な態度に美術部は戸惑いつつも同じように礼をして、疎らながらもロビーでテレビを見たり通りすがる泊り客にちょっぴり不審な視線を向けられる中、銀華たちへと歩み寄った。
「昨日からの歌も貴女が?」
 寄るなり杏虎が問うと、銀華はコクリと頷いた。
「この子を捜しながら山のもののけを眠らせていたのです。私も山のものですが、すべての怪異と話が通じるわけではありません。人の子もあやかしの子も見境なく食らうモノもおりますから。……それに、【三日月】に見つかるわけにはいかなかった」
 彼女はそう言って、細い手で娘を抱き寄せる。娘・天華はそんな母親をキョトンと見上げ、「大丈夫だよお母ちゃん」と呑気に言う。
「おかしなやじりを持ってるひとたち、この頃ずっとみないもん。わらし一人でも大丈夫だよ」
「まったくこの子は……っ、黙って居なくなって、お母ちゃんがどれだけ心配したかっ……!」
 叱る銀華の声に籠るのは、楽天的な娘への呆れと怒りと安堵。だが内面の幼い天華はその怒りだけを敏感に感じ取り、「ごめんなさい」と涙目になる。一方美術部メンバーは美術部メンバーで、天華の言った「おかしな鏃」の方に関心が行っていた。
「その、おかしな鏃って言うのは」
 代表するように眞虚が言うと、銀華は美術部に向き直って「ええ」と答えた。
「【三日月】がダーツと呼んでいたものです。山の仲間も幾らか餌食になりました。【灯火】様の力を借りて、……泣く泣く山の土に返しました。その……仲間をおかしくした【三日月】の部隊の姿が、先月の頭からぱったりと見えなくなったのです」
「先月頭? なんかあったっけか?」
「さあ……? でも十五夜ナントカが来て学校めっちゃ壊してったりとかしたって話そのあたりじゃなかったか?」
「あ~」
 怪訝に話す乙瓜と魔鬼・その他三名を見ながら、深世は心底嫌そうな顔で「つうか学校壊れたのかよ」とツッコミを入れる。そんな話は聞かされていない。けれども五人はそんな事などお構いなしで、「何企んでるんだ?」と首を捻る。
「なんかする度ことごとくお前らに妨害されるもんだから、いい加減諦めたんじゃないのか?」
 言う深世に、銀華は「それはあり得ません」と否定する。
「あの【三日月】……総裁・曲月嘉乃に限ってそれはあり得ません。期を逃して活動を縮小する事はあっても、必ず次の機会を虎視眈々と狙っている筈です。貴女方の古霊町を、なんとしてでも落とす為に」
「マジすか。……あの野郎火遠の話には聞いてたけど、相当性質たち悪いなそいつ」
「けれどもそれが灯火様・・・とあの男との因縁なのです」
 ドン引く深世にはっきりとそう返し、銀華は改めて他の五人に目を向けた。
「皆様。美術部の皆様。……貴女方は【三日月】と――【月喰の影】と戦う決意をして下さったばかりか、何匹なんにんもの私どもの仲間を救ってくれた。……ありがとうございます」
「そんな! 何度も頭を下げられても、私たちは別にっ……」
 大したことをしていない。全ての妖怪を救えているわけではない。眞虚は慌てて銀華にそう言うが、銀華は「いいえ」と譲らない。
「私どもには誰一匹ひとりとして救えなかった。何かを作る為にここから連れ攫われていく仲間を、この場を守る為に戦って心を壊されていく仲間を助ける事が出来なかった。ですが――だからこそ。名も知らず会った事も無い妖怪でも。一匹ひとりでも救われた同胞が居るという事が、私には嬉しかった。……私は氷雪の妖怪です。雪の冷たさを持って、貴女方人間から奪いもする。けれどもこれだけは言わせてください」
 ありがとうございます。確かにそう言った彼女の姿に、美術部メンバーは顔を見合わせた。
 全人類の排除を掲げる【月喰の影】は、銀華たちの住むこの山にも暗い影を落としている。否、この山だけに留まらず、各地で同じような事が起こっているのだろう。
 己の賛同者しか要らない、逆らう者には死を。それを自己中心と呼び独裁と呼ぶのだと、十三・四歳ともなれば自然に分かってくるものだ。自分たちはとんでもなくろくでもない脅威を相手にしているのだと、美術部は改めて実感する。
「……【月】、ろくでもないね」
「ろくでもないな」
「わかってたけど」
「けれど猶更なおさら……負けるわけには行かなくなった!」
 遊嬉が締め、美術部は雪女に向き直る。そしてその足元で目をぱちくりとさせる天華にニッと笑うと、彼女らは堂々と宣言した。大丈夫、と。

「大丈夫。【月】の連中は、あたしらが絶対に、何がなんでも倒す!」

 代表するように胸を張って、遊嬉はぐっと親指を立てた。



「――とかなんとか言っちゃって。いつの間にか目標が『戦う』から『倒す』に変わってるし。……私知らないからなー?」
 雪女母娘が夜の山へ帰った後、ぞろぞろと並び歩いて客室に戻る同中で深世が言う。遊嬉はそんな部長にニヤリと笑い、「ブラフだろうがなんだろうが、気持ちで負けたら勝てやしないからアレでオッケー」と肩を竦める。
美術部うちはいつから運動部みたいなノリになったんだっけ……?」
「まーまー。いいじゃんいいじゃんそんな事は」
 ほとほとあきれ果てた様子の深世の背中をバンバンと叩き、遊嬉はケラケラと笑っている。そんな彼女らの様子を見つつ、魔鬼は思い出したように口を開いた。
「……そういえば、今日誰か火遠と水祢見た?」
「いいや? 見てないぞ」
「あたしも見てない」
「私も」
「そっか……うーん」
 異口同音に「見ていない」と返す乙瓜・杏虎・眞虚に、魔鬼は何とも言えない表情を浮かべた。
「何か気になる事でもあるのか?」
「ああ、うん。まあ――」
 乙瓜が問うと、魔鬼は小さく頷いてから己の気になるところを口にする。
「あの雪女さん、どうも火遠の事知ってる風だったんだよ。ていうか思い出してみれば、去年天華が来たのも母親に頼まれてだったような気がするし。そもそも『みかけたら対処する程度でいい』ってのも、最初からこの怪事が知り合いの雪ん子由来だって気づいてたからだろうし。……でも、だったら雪女が訪ねて来たところであいつが顔出さないのはちょっとおかしくね? って」
 それを聞いて、他の三人も確かにと頷く中、魔鬼は「肝心な時にあいつが居ないのなんか今に始まった話でもないけどさ」と話を結んだ。言われてみればそれもまたそうであるので、三人は再びバネ人形のように首を振った。
「どっか出かけてんじゃね?」
 杏虎が言う。「温泉でも入ってたんじゃねーの」と乙瓜が乗っかる。眞虚はちょっぴり間を置いてから、「また本部なのかな」と呟く。
 その言葉に、魔鬼ら三人はキョトンとして眞虚を見る。遊嬉ら二人の姿はというと、そこを曲がればすぐに自分たちの泊まっている部屋となる廊下の角の向こうへと消えてしまった後だ。
 とりあえず三人分の視線の集中砲火を受けた眞虚は、びっくりしたように目を丸くしてから言葉を紡ぎ始めた。
「……えっと、あのね。昨晩の事、みんなどれだけ覚えてる? 【灯火】本部に行った事。……気付いたら布団の中に戻ってて、もしかしたら夢だったかもなんて、今でも思ってるんだけど」
 恐る恐る言う眞虚を見て、「やっぱり夢じゃなかったんだ」とあっさり言い出すのが杏虎だった。彼女もまた気が付いたら布団の中で、且つ目を覚ました矢先からの雪だるま騒動を前にすっかり昨夜の事を言い出せなかったクチらしい。魔鬼もまた同じようだ。
 その流れに便乗するように自身もそうだと答えながら、乙瓜は内心困惑していた。あの面談が夢でなかったのなら、丙の言葉の意味する事は――と。

『お前さん――本当にわかっていないのか……?』

(どういうことだ? 俺はあの人に何を答えた? どうして何も覚えていない? 俺がおかしいのか……?)
 杏虎や魔鬼は内容の詳細こそは話さないものの、どんなことを聞かれたかは覚えている様子だ。そんな会話の輪から外れ一人ぐるぐると疑問の渦を巡らせていた乙瓜は、ふと、己をじっと見つめている視線に気づいた。
 それはくりくりとした大きな瞳――眞虚の瞳だった。
「眞虚ちゃん……?」
 呆然と言葉を紡ぐと、眞虚はハッとしたように「何でもない」と手を振った。そうこうしている間に四人はそれぞれの客室の前へと辿り着き、そのままお休みの挨拶をして別れる事となった。だが結局は眞虚と同班同室の乙瓜は、眞虚の視線の意味が妙に気になり、消灯の時間が来ても中々寝付く事ができなかった。
(……いや、偶然だよな。偶々目が合っただけ……だよな)
 乙瓜は頭から布団を被り、自分を納得させるように頭の中で考えを反芻する。灯りの消えた室内で、暫くの間はまだ起きている誰かしらの内緒の恋愛話コイバナが聞こえていたが、それも徐々に寝息に浸食されて消えて行った。
 それでも尚も眠りに就けない乙瓜には、次第に謎の焦りを感じ始める。眠れない事に関する焦り。面談の記憶がすっかり抜けている事への焦り。それらがぐるぐると混ざり合って、得体のしれない渦を広げていく。
(どうしよう、眠れない時ってホットミルクだっけ? ぇよここにそんなもん……! どうしよう、明日もあるのにどうしよう……!?)
 いよいよもって限界かと思われた時、乙瓜はガサリという音を聞いた。決して大きくないその音は、乙瓜の耳には布団が捲れる音に聴こえた。
 誰かがトイレにでも起きたのだろうか。そんな事を思ったからか、乙瓜は一瞬焦りから解放される。布団を被ったままに外の気配に神経を尖らせると、気を遣うような足音が周囲の布団を踏みながらとん、とん、と移動するのが分かった。……けれどもその音は洗面所の方向には向かっていない。ゆっくりと、乙瓜の方へと近づいている。
(…………えっ?)
 乙瓜が気づいてハッとすると同時、被っている布団に誰かがそっと手を当てた。ごそ、と小さな音が立ち、すっと息を吸う気配がする。
 そして乙瓜が身構える暇も与えずに、その気配は小さく、とても小さく。けれどもこの沈黙の室内の中で掛け布団の向こうの相手に伝えるには充分すぎる程の声量で、そっとこう告げたのだった。

「私も……不合格だから」

 そう告げて、気配はゆっくりと乙瓜の布団を離れて行った。……乙瓜の耳がおかしくなっていない限り、それは小鳥眞虚の声だった。



 かしこみ恐み扉が開き、神の領域には穢れ無き白とそれに映える魔除けの紅。そんな紅白を一身に纏う、一人の女が口を開く。
「――貴様、れるのも大概にしろ」
 殺伐とした気性を具現化したような言葉を静かに吐きながら、鋭く炯々けいけいとした視線を向ける先には赤きほのお。草萼火遠の姿がある。
 巫女の姿をした人ならざる存在の放つ威圧感を前に、同じく人ならざる火遠は一歩も退くことなく、あくまで対等に向かい合う。
「そう言わないでくれよ。君の力が必要なんだ。昔馴染みとして無理を承知でのお願いだ」
 嘆願する火遠をフンと見下ろし、女はギロリとした視線を火遠の隣へと滑らせた。そこに立つ青い少年――水祢は、敬愛する兄をコケにされたからなのか、それとは別に思う事があるのか、酷く厳しい視線を女に向けていた。
「憎まれたもんだな。まあ当然か。……しかしいいだろう。貴様らの持ち込んだ"願い"、この玉織が可能な限り実現へと近づくよう特別にえにしを結んでやろう。……だが、それ相応の代償は貰うぞ」
「感謝するよ」
 火遠が頭を下げた先で、女は――玉織と呼ばれる存在は微かに目を細めた。


 探る。探る。誰かが何かを探る。
 捜す。捜す。誰かが答えを捜す。
 廻る。廻る。何かが音を立てて転がり、廻る。

「さあて、そろそろこの茶番の終幕に向けて動き始めようか」
 暗闇の中、それはそっと目を開く。光源も無しに光る金色輝かせ、彼は赤い三日月を浮かべて笑う。

 これから何かが始まり、何かが終わる。
 そんな予感を感じさせる中で、きっとそれは――捜していた。



(第十七談・雪山妖霊スノーデイ・完)

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