怪事廻話
序文

 物語は回り廻る。
 斜面しゃめんを転がる石のように。絶えることなき川の、海の、その流れのように。
 一度回り始めたものは二度と同じ場所に戻ることはない。近い場所に還ってくるできる。けれども、寸分違わず同じになる事は決してないのだ。

 時は流れる。光陰矢の如し。過ぎ去った日々は戻らない。充足した時間も、無為に過ごした時間も、あやまちも。
 人は変わる。肉体の成長、内面の成長、社会の成長。日進月歩に進んでいく。――否、この世に生まれ、生きて死ぬ。たったそれだけでも、片時も立ち止まる事なく変化していると言えるだろう。

 決して消えないことわりがある。この世に永遠不変のものなどない。

 新芽は芽吹き花は枯れる。砂は風に流され、不動の巨岩ですら年月に削られて形を変えてしまう。
 懐かしの住処すみかもいずれは朽ちる。或いは大自然の脅威の前に無残にも打ち壊されるだろう。

 世界は回っている。物理的にも、感情的にも。あるときは劇的に、またあるときは誤差の範囲であったとしても。止まらないのだ。この世界は。
 廻っている。転がっている。流れている。それで正常に動いている。……だから断絶させてはいけない。
 喜びは永遠ではない。だが悲しみもまた永遠ではない。そこから動き出そうとする限り、"今"は決して永遠にはなり得ない。
 悲しみの先には更なる悲しみが待っているかもしれない。だが新たな喜びが待つ可能性を切り捨て、全ての"未来"を剥奪はくだつする権利が誰にあろうか?

 故に。彼女たちは戦った。世界の回転を止めようと目論もくろむものたちと。己のため、或いは誰かのため、はばまれようとしている先の未来へ行くために。
 人でなきものたちも戦った。全ての過去を、己が己であった理由を。自分たちが歩き続けたすべての道程みちのりを否定し壊されてしまわぬように。

 回れ、廻れ。転がり、流され、動き出せ。

 ここからの物語は、人知れず世に知れず、大それた野望に立ち向かった者たちの記録。
 かつ数多あまたの人が在り、数多の人でなきものが在り。それぞれが愛し排され笑い泣きながらつむいだ物語の先へ続く為の物語。

 一つの終幕と、一つのはじまり。


 ――たとえ、愚か者だとせせら笑われても。

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